November 08, 2010 23:10
「リミット」
─────目覚めたら箱の中。脱出不可能。そのとき、あなたを救うのは、誰だ?
予告編を見た段階で凄く気になった作品。今や、すっかり一ジャンルとしての地位を築いたワンシチュエーションスリラーだが、これは恐らく史上最も狭い空間で表現された映画であろう。イラクで働くアメリカ人のトラック運転手である主人公・ポールが閉じこめられた棺の中で目覚める所から始まり、外部のシーンも回想シーンも一切出て来ないまま、最後まで棺の中だけで完結してしまうのである。ポール以外の登場人物の顔は、You Tubeの映像で1〜2分程映し出されるもう一人の被害者だけで、あとは携帯電話を通した声のみの為、電話相手の風貌も表情も全く分からず、善意も悪意も真偽の程も想像する事しか出来ない。劇中時間と上映時間がイコールと言うリアルタイム作品だ。
そういう特性上、これは暗所恐怖症,閉所恐怖症の人にはとても勧められない。また、他人が激しく呼吸しているのをずっと聞かされていると 、それに釣られて自分の呼吸が正常に出来なくなってくる様な人にもかなりしんどい作品である。私はこれに該当してしまったので、開始数分の段階で死にそうな気分になった。ただでさえ、狭い空間で息苦しい中、ポールは不安障害を抱えているもので、冒頭、画面が真っ黒のまま、大音量で激しい呼吸音を延々聞かされ続けるのだ。あの調子で90分続いたら、果たして、最後まで席に着いて見ていられたかどうか、あまり自信がない。やがて、ポールは薬を服用し、落ち着いてくるので、やや呼吸は収まるものの、息苦しい事に変わりはないので、最後までそれなりに息が荒い状態で、終始、自分の呼吸を整えながら見なくてはならないと言う意味で、これ程、見ている最中に疲弊した作品は未だかつてなかったと言っていい。同室で床に就いて、先に寝息立てられてしまったら、落ち着いて息が出来ないレベルの人でも、それなりの覚悟を持って見て欲しい。
恐らく、家でDVDで見る分には、ゆったりした空間で明るさ、音量も調節出来、途中で再生停止も出来ると言う意味で、その辺の不安要素は解消されると思うのだが、やはり、この作品を真に堪能するには、劇場がベストではなかろうか。こういうタイプの作品は自分だったら、どうするか…と考えながら見る事が多いと思うのだが、あの圧迫感,閉塞感,不安感と言った主人公の体験を自分にフィードバックするには、暗く閉鎖的な空間で途中で抜け出せない劇場は正に、最適の空間なのである。これ程、主人公の体験を心身共に実感出来る作品もなかなかないのではないか。と言う事で、体調を崩さない自信のある人には、なるべくDVD鑑賞よりは、劇場で鑑賞する事をお勧めしたい。
以下、思いっきりネタバレありなので、これから見る人は注意。
誰もやっていない事に果敢に挑んだ凄い作品である事は間違いないとは思うが、エンターテイメントとして面白かったかと言うと、残念ながら微妙である。見る前に期待していた「SAW」的な面白さは希薄であった。これはまず、犯人の目的が身代金もしくは、アメリカ政府へのネガティブキャンペーンだからと言う部分が大きいのだろう。ポールが死んだら死んだで、身代金は貰えなくても、別の目的は果たされるとなれば、ポールから犯人を妥協させる要素が皆無で、駆け引きの要素は犯人側からの一方的なものしか成立しない。棺の中に用意された道具はポールを従わせる為のものでしかない為、こう使えば脱出の要素に繋がりうるが果たして気付けるかな?的な遊びの意図は全くない。ポールもそれを使って犯人を出し抜くアイデアを思いつく事が出来ない。あと上映前の段階で、携帯電話でどこにかけるのかと言う閃きが脱出の為の最大のポイントになるかと思っていたのだが、家族と会社とFBIと言った至極、妥当な所にしかかけなかったと言うのは、かなり残念だ。FBIが国家の保身ばかり考えて、マスコミに情報を流すなとか言っているのにぶち切れて、マスコミに連絡する展開もあるかと思いきや、それもなし。マーク・ホワイトは年齢と大雑把な住所を聞いたので、もしかして、電話番号を調べてかけたりはしないか?(それで知るべきではなかったマーク・ホワイトの現況を知ってしまうとか)と言う期待もあったのだが、それもなし。残り少ない携帯電話の電池とライターのオイルをいかに節約して長く持たせるか…と言った駆け引きも殆どなし。何せ、さしたる苦心もしてないのに、電池もオイルも切れずに終わってしまった(そもそも懐中電灯があった段階で、ライターの存在意義が殆どなくなっている)。隙間から入ってきた蛇が入ってくるシーンの存在意義もイマイチ…。隙間が存在する事に気付いたなら、そこに集中的に打撃を加えて、棺を壊しにかかるとかするのかと思ったら、噛まれたら大変だ、何とか追い払わなくては…的な事でしかなかった。棺を壊すと言えば、折角、ナイフがあるのに、それを使ってガシガシ削ったりする様子もなく、最後、砂がどんどん入ってくる段階では明らかに棺には歪みが生じているのに、そこをつこうという気概も全くない。FBIが本当に助けに動いているのかどうかすら分かったものではないと思っているにも拘わらず、そのFBIが助けてくれる展開を待つ以外ないと言う受け身体勢なポールには、どうしても不満が残ってしまう。生き残る為に心身の全てを注ぎ込まなくては…感が足りないのである。結局、これは脱出劇のゲーム性を堪能する作品に見えるが、制作者の意図は恐らく、そこがメインではないのかもしれない。人間の命を駆け引きの道具にしか使わないテロリスト,国民一人の命など国家の威厳を守る事に比べたら微々たるものでしかないと言う政府,責任や保障を逃れるべく社員との雇用関係を切り離す証拠作りにしか尽力しない運送会社…と言った無情さが強調されている面があり、ある意味、ストイックな反戦映画とも言えるのだが、それならば、別のやり方で作れた筈。わざわざああいう特殊なシチュエーションを用意した以上はもう少し娯楽要素を加えても良かったのではなかろうかと思わずにはいられない。大体、ゲーム的な楽しみを持っていた訳でもない犯人側にとって、ポールを棺の中に入れるメリットって何? 時間制限はあっても、リアルタイムな生殺与奪権が持てず(実際、ポールは自殺しかけてるし)、自由に電話をかけられてしまう事で場所がバレるリスクも発生してしまうと言うのは、目的を考えると、どうしても疑問符がつくのだが…。
それにしても、ラスト直前に棺を空けて救われる妄想シーンを入れてしまったのは大失敗だった気がする。折角、ギリギリまでどっちに転ぶか分からなかったのに、あれでバッドエンドを確信してしまったし、ブレナーが見つけたのは別の棺だったと言うオチも想像がついてしまった。救出出来た人の名前を即、挙げろと言われて、マーク・ホワイトがパッと浮かんでしまったのは仕方ないとしても、あのラストでわざわざ言わなくていい名前を口走ってしまうなんて、酷過ぎるよなぁ、ブレナー…。死者に鞭打つとは正にこの事だ。なのに、あのオチに全くそぐわない、やたら脳天気なエンディングテーマの違和感ときたら何なのかと…。ともかく、ポール・コンロイはともかく、ライアン・レイノルズはよく頑張ったよ!
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コメント一覧

映画ですが、目の付け所とかは良かったと思うのですが、おっしゃる通り、イマイチな部分もありましたね。
少なくとも、ワンパターンのハリウッド映画よりかはおもしろかったと思います。
ライアン・レイノルズさん、確かに良く頑張りましたね。あの演技があったから、私は最後まで観れたのだと思います。