2018 ドカベン

June 28, 2018 20:15

ドカベン完結 「ドカベン ナイトメアトーナメント編」が今週号で最終回を迎えた。これで無印「ドカベン」以来46年に渡るシリーズがようやく完結する事となった。言うまでもなく、これは悲報ではなく、朗報だ。「ドカプロ」が「ドカパロ」と化して以降、渋々購読し続けてきたコミックスをもう買わなくて済むのだと思うと、安堵の気持ちで一杯である。たとえ一時的でも、持ち直す事があるかもしれない…と言う微かな希望を寄せながら読み続けてきても、水島氏は一切答えてくれる事はなく、晩節どころか過去の栄光をも汚しながら、衰えていく一方の作品の最終回を待ち続ける様は、愛情も枯れ果て、ただの義務感で長年、辛抱強く介護し続けてきた重度のアルツハイマー老親の最期を看取る様な心境にほぼ等しいと言ってもいいだろう。同じく半ば惰性的に全巻揃えていた「こち亀」が終わった時には、何だかんで言いながらも、残念だ,寂しい,もう少し続けて欲しい…と言った気持ちが湧いてきたものだが、「ドカベン」に関しては微塵もそういう気持ちが湧く事はなかったと言うのが正直な所である。では、ここでひとまず、「ドカベン」の歴史を振り返ってみよう。

◆「ドカベン」…1972年〜1981年
◆「ダントツ」…1982年〜1983年
◆「大甲子園」…1983年〜1987年
◆「ドカベン プロ野球編」(ドカプロ)…1995年〜1999年
  (ドカパロ)…1999年〜2003年
◆「ドカベン スーパースターズ編」(ドカパロSS)…2004年〜2007年
  (ドカパロSS地獄変)…2007年〜2008年
  (ドカパロSS超絶無間地獄変)…2008年〜2012年
◆「ドカベン ナイトメアトーナメント編」…2012年〜2018年

よくもまぁ、これだけ引っ張ったものである。「ドカプロ」以降が完全に蛇足だったのは言うまでもない。「ドカベン」の影響で野球を始めたプロ選手が数多くいる…などと、やたら取り上げられる事が多いが、実際に影響されているのは、あくまで「ドカベン」であって、「ドカプロ」はまだしも、「ドカパロ」の影響でプロを目指す選手など、たとえいたとしても極めて少数派だ…と言う事をマスコミはちゃんと伝えなくてはなるまい。

「ドカプロ」は連載当初こそ、実在選手に敬意を表する場面も多く、それなりに面白かったのだが、山田に決して四番の座を譲らなかった破戒僧・清原や、唯一、水島キャラと渡り合えていた鈴木一朗がパ・リーグから逃げ去った辺りから、水島キャラの天下が始まり、水島キャラが一方的に実在選手をシメ倒し続けるだけの漫画と化していった。山田が力や技ではなく、ヤマが当たるか当たらないかで全てが決まるジャンケン野球でホームランを打ちまくり、「やっぱり山田は凄い」の嵐。そして、中西球道のロッテ入りにより、正史ルートが崩壊。挙句の果てに、殿馬がストーカー女の魔の手に落ちるなど、ひたすら悪夢の様な展開を見せられるばかりであった。

この間、伊良部は殿馬にリズムを狂わされただけならまだしも、「〜だロッテ」などと喋らされる痛いキャラにされた事に嫌気がさして国外亡命。J.マッケンジーはドラフト1位の座を岩鬼に奪われ、事あるごとに舐めた口を叩かれて、嫌気がさして国外亡命。霊感投手・松坂は入団前から山田信者に仕立て上げられ、嫌気がさして国外亡命。今夜の松井さんはオールスターに出る度にスカイフォークにシメ倒され、嫌気がさして国外亡命。上原は毎度、岩鬼の安い挑発にひっかかってビーンボールを投げつけてはスタンドに叩き込まれ、嫌気がさして国外亡命。ダルビッシュはとりあえず外国人っぽい顔に描いておけば、認識して貰えるだろうと言う安直な理由で引っ張り出しておきながら、描かれる度に顔が全然違うと言う酷さに嫌気がさして国外亡命。田中はプロ初勝利を一球さんのおかげと言う事にされたり、山田の2000本安打の餌食に遭わされたりして、嫌気がさして国外亡命(田中の亡命は「ナイトメアトーナメント編」開始以降で、2012年で時が止まっている為、無傷の24連勝が完全にシカトぶっこかれたのも原因ではないかと言う説もある)。などと言った様に、数々の一級品選手が水島の呪いから逃れる様に次々と日本球界から去って行った

日本球界がどんどん水島キャラに寝食されていく流れの末、水島漫画の集大成,「ドカベン」シリーズの最終章と銘打って始まったのが「ドカベン ナイトメアトーナメント編」(以下「ドカナイ」)。舞台は2012年のペナントレース開幕寸前(コリジョンルール,申告敬遠,リクエスト制度など、数々の糞ルールが実行される前であった事は水島氏にとっては幸いだった事だろう)だ。この時点で山田達の満年齢が36歳。スーパースターズの決勝戦のスタメンはサル以外の8人が全員山田の同級生。サルが高卒だと仮定すると、この時点で27歳なので、スタメンの平均年齢が35歳。いくら選手寿命が延びている昨今とは言え、これは異常極まりない。スーパースターズが球団創立以来、山田達より若い世代の野手は十中八九、ろくすっぽ試合に出られていない証明であり、新陳代謝が皆無に等しいどうかしているチームなのである。これは他のチームにも言える事で、「大甲子園」未登場組は山田達より若い設定になっている可能性もあるとは言え、基本的には山田世代の選手が大半を占めている為、フレッシュさの欠片もないおっさんだらけの日本球界である

当たり前の事だが、プロ野球にとっての本番はペナントレースである。その開幕を直前に控えた大事な時期に、オープン戦に毛が生えた程度のエキシビジョン的な大会で死力を注ぎ込むなどと言う事は到底、考えられない。開幕投手候補が短い間隔で長いイニングを投げまくったり、故障を厭わないプレーをしまくったりするだけの価値がこの大会には全くないのである。つまり、新田小次郎など完全に無駄死に以外の何物でもない。そもそも、年に何十試合も負けるプロ野球を舞台にしておきながら、一発勝負のトーナメント形式の大会をガチでやる事に無理がある。多数の作品のキャラを一堂に介して、試合内容を綿密に描いていく集大成的作品にする為にはこうするしかないのだから、こういう指摘は野暮だ…と言う意見も勿論、あるだろうが、この点はどうにも説得力に欠ける為、受け入れがたいのである。

こういう作品は水島氏の画力・構成力に元気があった頃に高校野球を舞台にしてやるべきだったのだ。いや、実際、「大甲子園」でやっているのだが、結局、後に「ドカナイ」の様な作品に走ってしまった事を考えると、結果的に「大甲子園」は始めるのも終えるのも早過ぎたのかもしれない。「極道くん」「Kジロー」を関東以外を舞台にして描き、その連載が終わってから始めるのが頃合いだっただろうか。まぁ、「大甲子園」の終盤辺りから微かに画力の低下が見え始めているので、画力的なタイミングで言えば、あれがベストのタイミングだったとは思うのだが…。そもそも「ドカベン」の直後に、「大甲子園」のプロローグ的作品である「ダントツ」が始まっている事を考えると、「ドカベン」末期の段階で「大甲子園」の構想があったのは間違いない。「大甲子園」に移行するべく、「ドカベン」最後の春の選抜を急いで畳んでしまったのだとすれば、この時点から既に「ドカベン」シリーズ崩壊の序曲は始まっていたと言えるのかもしれない。

過去に出てきた全作品のライバル校を出し、地区がかぶる所はちゃんと予選で対決させ、甲子園のほぼ全試合(モブ的な高校の試合は多少省くとしても)を最低でも、青田対クリーンハイスクール,光対南波くらいのスケールで描きまくっていれば、それで超大作になっていたのではなかろろうか。これが出来なかった理由として考えられるのは、明訓視点である事が前提であった為、他の試合を描きまくっていると、明訓の試合がいつまで経っても始まらない…と言うのがあるのだが、「ドカベン」ではなく、水島漫画の集大成とすれば、一向に明訓の出番がなくても、盛り上がりに欠ける事もなかったのではなかろうか。はっきり言って、明訓対紫義塾などより、上記の2試合の方が遥かに面白かったし…

あと、基本的に、水島氏は対戦相手の情報が極めて少ない状況で試合を組みたがると言う事。出し惜しみのない戦いぶりを対戦前に見せてしまうと、手の内が知れた状況で試合を描かなければならなくなり、その事態は水島氏にはあまり好ましくないのである。故に、土佐丸対室戸学習塾など、絶対に描く訳にはいかなかったし、紫義塾など花巻との準決勝ですら殆ど描かれなかった。正統派で真っ向勝負の白新戦なら5度も描ける訳だが、土佐丸など何回出てきても、明訓と当たるまでは徹底的に本来とは違う野球(キャッチボール投法,全員片目,無気力プレーなど)をやらせていた。土佐丸が明訓との対戦前に唯一、出し惜しみしなかった要素は犬神のフォークだったが、これは弁慶に敗れる事が前提だったから、見せても構わなかった訳である。

しかし、読者に知らせないのはいいとしても、この情報社会において、劇中で相手の事を全く知らないケースなど滅多にある事ではない。謎のチーム,謎の選手なんてのは殆どいない訳で、まして、連日、マスコミに囲まれるプロ野球に至ってはその日までに選手登録されていた事を試合に登場した時に初めて知るとか、ドラフトにかかっている筈なのに試合に出てくるまで誰も知らないとか…そんな馬鹿げた展開はありえないにも拘らず、水島氏は好んでこういうネタを連発する。好んでと言うか、こういう盛り上げ方以外の引き出しが枯渇してしまっているのかもしれない。

少々話が逸れたが、高校野球でやるべき設定をプロ野球に持ち込んでしまっている為、こいつらは何でこんなどうでもいい大会に躍起になっているんだ?と、白けて仕方がないのが「ドカナイ」と言う作品なのである。早々に負けるチームは例外として、実在選手を全員締め出した為、大量のキャラが必要になったのも問題だった(そもそも、こういう事をやるなら、「光の小次郎」の様に最初から架空の12球団を舞台に、現実時間とリンクしないプロ野球編をやるべきだったのだ)。空草,大前田,雪村,花園,赤青黄の三兄弟…等々、どう考えてもプロ野球選手になれる器とは思えない様な奴らがウヨウヨとプロ入りしてきたのには、ゲンナリさせられるばかり。

南海権左など、論外中の論外である。「極道くん」の権左兄弟ならまだ分かるが、吉良高校の南海権左となると、ド素人も甚だしく(何故か制球力だけは良かったが)、高校卒業後に神がかり的な急成長を遂げたのだとすれば、それはもうそれだけでちゃんとしたエピソードを用意する必要があるくらいのミラクルだ。こいつらをプロとして出すくらいなら、こいつを出せよ…と言う連中が山程残っているだろうに…。

北をマネージャーにしたり、太平洋を実況アナウンサーに成り下がらせた様に、無理矢理登場させたい輩は別のカテゴリにすればよかったものを、仲根にタイムリーを打たれる程度の平均的高校球児・雪村がプロ入りとか、どうかしている所業だ。最後の最後にまるで切り札のごとく出てきた大楽だが、「ダントツ」からこんな噛ませ犬キャラを引っ張り出してくるくらいなら、倭武多を出せよと! 「ダントツ」最強キャラはどう考えてもこいつだろうに…。

また、本来とは違うポジションを理不尽にやらされるキャラが多発したのも頂けない。全チームに振り分けず、特定チームに詰め込むから、こういう訳の分からない事になる。京極や埴輪に無理矢理内野をやらせたりする一方、本連載中で何度となく登板のチャンスがありながら、決してマウンドには上がらなかった事にある種の矜持を感じたKジローに投手をあっさりやらせてしまったり、モヤモヤする事が多過ぎるのだ。

また、弱キャラの能力が引き上げられ、強キャラの能力が引き下げられた為に、キャラの実力差が大幅に縮まった事により、ただのアウトカウント稼ぎ要員が消滅。その結果、基本的に打高投低の乱打戦の傾向が強くなり、打ち込まれた投手は短いイニングで次々と交代。ポジションも入れ代わり立ち代わりの落ち着きのない試合展開ばかり。京極はMAX135kmなどと大幅な弱体化を余儀なくされ、バッターとしての山田、セカンドとしての殿馬の上を行くと言っても過言ではない水島最強キャラ・Kジローもただのユーティリティープレイヤーと言う極めて中途半端な扱いで全く盛り上がる事はなかった…。この作品に引っ張り出されて得をしたキャラは基本的に元作品でさして活躍出来なかったキャラくらいなのである。

ストーリー,試合展開が酷いのは今更感が強過ぎるとは思うが、「ドカナイ」を見ていて、最も悲しくなるのが画力の壊滅的な低下である。キャラのデッサンはもうメチャクチャで、殿馬や先斗などのチビキャラの頭身が突然上がったり、山田の肩幅がとんでもなく広くなったり、中西の足が異様に細くなったり、三白眼の堀田の目が度々パッチリしたり、不安定な事この上ない。野球描写に至っても、剛速球がちっとも速く見えないのは壊滅的な痛手。それをフォローしているつもりなのか、中西など投げる度にいちいちスピードガンの数字が描かれるのだが、それをもってしても、全く説得力がない描写力なのだ。速球が速く見えないとなれば、当然のごとく、打球も速く見えず、スイングも鋭く見えず、俊足選手も速く見えず、ダイビングキャッチにも全く躍動感がないのである。

こういう時に何とかするのがアシスタントだと思うのだが、一体、水島氏のアシスタントは何をやっているのか?  水島氏クラスなら、いくらでも有能なアシスタントを雇って、相応の効果線を描き足して貰えそうなものなのだが、雇えないのか、雇わないのか、そういう指示を出さないだけなのか…。スイングの軌道も全くストライクゾーンを通っていなかったり、ど真ん中と言いながら、打者の顔面近くの高さだったり、最早、絵ではなく台詞で説明しないとどうしようもない漫画になってしまっているのだ。構図の引き出しも完全に枯渇しており、似た様なプレーはいつも似た様な構図ばかり。ファインプレーは外野の真後ろのジャンピングキャッチと、内野の真横のダイビングキャッチばかり。二塁ベースに一塁走者が滑り込む画など何度同じものを見せられたか分からない。全盛期の水島氏の画力は本当に凄かっただけに、老いと言うものをこうもまざまざと見せつけられると、憐憫の気持ちしか湧いてこないのである。

「ドカナイ」に関しては、リアルタイムで立ち読みした後は、単行本で1回読み、その後、ほぼ読み直しと言うものをしていないので、具体的な指摘をいちいちしていられない。実際には、まだまだ山ほどツッコミどころがあるであろう事は想像に難くないのだが、ひとまずここまでにして、いよいよ迎えた最終回が果たして、どんなものだったのかと言うと…

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